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講釈師が語る円山応挙その三 見たことのない太夫が現れる

「礼を言われるのも恥ずかしい。ええか?病は気からと言うてな、気を確かに持って居たら体も丈夫になるもんや。それから今度は私の頼みや。まぁ頼みと言うよりも、お前さんの身寄りを見つける手立てにもなることなんやが、ちょっとお前さんの絵を描かせてもらいたい」

口では身寄りを探す手立てと言いながら、応挙にはもう一つ紫の絵を描こうとした訳がございます。当時応挙は、幽霊の絵に興味を持ち始め、あちらの幽霊画、こちらの幽霊画と見て回っておりましたが、なかなかこれという絵が見つかりません。

そんな時に出会ったのが、この紫のやつれた、髪をおどろに振り乱した姿。応挙は心の中で『これは幽霊になる女だわい』一人でうなずきながら、筆を運ばせました。やがて下絵を描き終わりますと、さらに励ましの言葉を与えて、自分の部屋と戻って参りました。

翌朝早々ここを出まして、長崎中を見物し、夜には宿へと戻ります。大体がお酒が好きな人ですから、一杯ぐっとやってから床に就きました。其の真夜中。ひょいっと目が覚めると、枕元の行燈が明るくなっているので、こう顔を上げると確かに閉めておいた筈の唐紙が開いている。ぼんやりとそこに座っている者がいる。見ると化粧気配も美しく。金糸銀糸美しい打ち掛けを身に纏まった女。にこり微笑みお辞儀をする。「そなたは?誰じゃな」と声を掛ける煙のように「すっー」と消えてしまった…

(旭堂南龍=講談師)

(トラベルニュースat 2024年7月10日号)

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