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講釈師が語る円山応挙その五 馴染みの居酒屋であの科白…

「西国九州の方まで足を延ばしておりました。京へ帰ってくるとここで一杯やらんことは戻って来た気がせん。一杯つけてんか?」「あのなぁ。それが先生の前やけども、今日はもうおまへんねん」「え?もう店終い? えらい繁盛してるんやな」「いいええな。そやおまへんねんので、もう仕込みの銭がないようなってしもうて」「仕込みの銭がない?と言うたところで、何とかなりそうなもんや」「何ともなりまへんねん」「えらいあっさり言うたな。一体どういう訳や」

「それがな先生。ここだけの話やけども、借金のために、首が回らんようになってしもうたんだす」「借金? 甚兵衛はん。夫婦差し向かいの家で借金とはどういうわけや?」「それがな。先生やから言いますけどもな。人さんの証文にワテが受け判を押しましてな。それがその人が払ろうてくれはらへんよってに皆ワテの処へ回ってきましたんや」「ようあるやつや。それでなんぼほどの借金や?」「へぇ、七十両とちょっと」「七十両? なんでまた大金の証文の判みたいなもんを押すんや」「いいええな。七十両の証文やおまへんねん。あっちゃが一両こっちに二両向こうが三分で、此処一朱」

「またぎょうさん押したもんやな。そら爺さんの気のええ処へ皆が付け込んだに違いない。それでこれからどないするつもりや?」「どないするというたかて、夜逃げするしか仕方がない。流れ流れて年より夫婦西は九州鎮西の道不知火の薩摩潟、東は奥州蝦夷松前と処定めぬ渡鳥~」「田舎芝居やないねんから、というて、ワシも七十両てな大金。出せるわけはないし。そうや。一つワシが縁起物を描いてやろうないか…

(旭堂南龍=講談師)

(トラベルニュースat 2024年11月10日号)

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