他者を知り共感・贈与・投資を
観光の目的って何でしょうか。「癒し、遊び、ストレス発散」。学生に聞くとそんな答えが返ってきます。これらはすべて消費者の視点。観光を生産者の立場で定義できれば卒業なのですが、なかなかできません。
一例として、エルサレムで観光の再構築を説き、旅行会社メジツアーを経営するパレスチナ人のアジス・アブ・サラ氏は「国境をなくすこと」と定義しています。同氏の事業は、ユダヤ人とタッグを組みエルサレムの町を案内するデュアルガイドから始まりました。お互いの立場の違いを知り、理解し、親しくなることが観光の第一歩。そのために、国境を越え、その国の、その町の人々の生活をリスペクトし、共感する仕組みと機会を作ることが観光だと説きます。
日本の観光は長きにわたり、天動説観光でした。客として不動の価値観を持って旅をする者に、誤った意味でのおもてなしとして、もみ手をし、頭を下げ、お客様のためならなんなりととひれ伏してきた観光です。正しいもてなしとは主客対等であり、客が主のことを理解し自分の価値観をその地ごとに変化させながら旅をする地動説観光の文脈にあります。
責任を持たない客は客ではないとするのが観光の再構築です。
現在、富裕層をターゲットにしたり、量から質への転換を目指す地域が増えていますが、同じ方向性だと思います。富裕層とは、承認欲求の塊となり金にものを言わせる心の貧者ではなく、その地に共感し、贈与として自らの財布を開く心の富裕層を指しているのだと思います…
(井門隆夫=國學院大學観光まちづくり学部教授)
(トラベルニュースat 2022年10月25日号)
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