マイクロアグレッション
福井県池田町の移住者に向けた「池田暮らしの七か条」が話題になっていました。思い込みや雰囲気だけで移住しないようにという趣旨で作成されたものですが、都会暮らしを地域に押し付けないこと―といった表現に賛否両論が巻き起こりました。この事件には現代の隠れた病理が表れていたと思います。
まず池田町の応援をすれば、都会で暮らす人々が得る資源や食料はどこで生産されているのか考えていけば小さな町の思いにも行きつくと思います。森と人里の緩衝帯だった里山や空き地に手が入らず獣害にも悩まされるようになり、そのためにも共助が必要なのだということを直接的表現で伝えたものだと思います。
しかし、今の時代にこうした表現は、マイクロアグレッション(無意識な攻撃)ととらえられる時代になりました。マイクロアグレッションとは、発言者はそんな意図ではなかったのに他者への批判ととらえられてしまうことで、都会人、いや現代人は、常にこのマイクロアグレッションをしていないか、おびえています。もし、そうとらえられてしまえば、十倍返しの匿名反撃をオンライン上で受けてしまうからです。池田町はその標的となってしまいました。
そのため、現代人は発言に慎重で、見ず知らずの他者とはできるだけ関わらないようにする一方、意見の合う仲間との会話は饒舌で、そんな同志で固まって生きています…
(井門隆夫=國學院大學観光まちづくり学部教授)
(トラベルニュースat 2023年2月25日号)
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