旅を経験する奨学金の創設を
年々学生が幼くなっています。
宿泊産業論という授業では、新しい宿のコンセプトを考えさせるのですが、新しくもなんともないアイディアしか出てきません。調べてないし、本当に世の中を知らないのです。マーケティングの授業では、世代、性別、国籍など自分とは違う市場のニーズを洞察し、新事業を構想するのが課題ですが、いや本当に何も考えない。頭の中で年代やジェンダーが固定化してしまっていて、女性服を男性社員が企画しているなどといえば、キモいと答える始末。
自分のわずかな経験でしか物事を判断できないので、発想が広がりません。ニュースや情報をSNSでしか拾わないので、身の回りの小さな世界が広い世界と誤解しています。
これらの原因を突き詰めていくと、90年代後半以後に生まれ育った10―20代の子どもたちは、社会経験が少ない点に帰結していきます。そして就職の段になり、宿泊業は低賃金、ブラック、カスハラ、休日出勤だから嫌だと志望しません。何をしてそう思い込むのだろうと感じ、宿泊経験を語らせてみると、家族や友人と泊まったバジェットホテルの経験があればよいほうで記憶がないという子も少なくありません。それなのに勝手にイメージで思い込んでしまっているのです。
そこで、ラグジュアリーホテルの自主視察を課題で課しました。ラグジュアリーの定義は概念的であることを説明しても、具体的なホテル名を聞かないと動けないところも闇深いですが、とりあえず行ってみると、どうでしょう。「宿泊業のイメージが変わりました」、「新たな志望業界になりました」。一転、そうした声が出始めたのです。
かつて観光業を希望する学生は、子ども時代のホスピタリティ体験から、業界への憧れを持っていました。いまやそれがなくなり、人手不足につながりつつあります…
(井門隆夫=國學院大學観光まちづくり学部教授)
(トラベルニュースat 2025年1月25日号)
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