観光がつなぐ タクシーと旅行者(3)
和歌山県串本町(旧・古座町)ではカヌータクシーが走る。夏のシーズンには専用キャリアにカヌーを載せたタクシーが川の上流へひっきりなしに向かう。今年も8月だけで2千人がタクシーに乗って、カヌーを楽しんだ。
和歌山県串本町「カヌータクシー」
古座川河口に近いJR古座駅。駅舎には、カヌーレンタルを受け付ける古座観光協会の事務局があり、着替えのための脱衣場なども備わる。すぐ隣の艇庫には約100艇のカヌーが用意され、ライフジャケットなどを貸し出す。カヌーを借りて、パドルの漕ぎ方を教わったら、カヌータクシーに乗車。運転手はカヌーの積み下ろしを手伝い、川沿いの道すがら「あそこは、よくひっくり返っている人がいるんで気をつけて」などと声をかける。後は、カヌーの経験度によって異なるスタートポイントの河原に乗りつけてくれる。
まさに、身一つで気軽に南紀の清流を楽しめる画期的と言っていいシステム。この間、利用者はレンタル1式2000円とタクシー代1500円(初級コース)を支払うだけだ。
古座川のカヌー事業に立ち上げ時から関わっている串本町観光課の浜地弘貴さんは「古座町は河口のまちですから、カヌーをどう運搬するかがポイントでした。自家用車では漕ぎ終わって上流に車を取りに戻らなくてはいけませんし。それで、スキー場のタクシーを思い出したんです」。
浜地さんは地元のタクシー会社に相談した。「古座は観光に縁がなく、タクシーは平日にお年寄りが通院に使うのが主でした。タクシー会社も共感してくれ、今では夏の繁忙期などには近隣から応援のタクシーが来るほどです。半日で通常の1日分が稼げるそうです」という。
年間100人程度と見込んでいたレンタル開始の01年に1112人、以降右肩上がりで増え07年は5300人に達した。
観タクンといい、駅を拠点にした取り組みは、浜地さんが学生時代から考えていた仮設「駅が賑わえば、その周辺が活性化し、まち全体の元気につながる」を実証したと言える。当時、浜地さんはこうも考えていた。「どこか知らない土地へ車で行っても、駅を目標にすると思うんですよね」。仕掛けひとつで、観光拠点としての駅は再興するのかもしれない。
(トラベルニュースat 08年9月10日号)