地球温暖化 観光業界の対策は(2)
地球温暖化を研究する東京大学など14の研究機関はこのほど、今世紀末までに、日本の気温が90年に比べ4・8度上昇するとした予測をまとめた。海面は36センチ上昇し、多くのビーチが壊滅的な影響を受ける。世界遺産の白神山地ではブナ林が消滅する。環境は大きく変化し、生活も変わる。そのとき、観光はどうなっているだろう。
「CO2ゼロ旅行」、自然エネルギーの活用
07年4月、JTB関東が「CO2ゼロ旅行」を発売した。旅行者が予め自然エネルギーで発電した電力を購入することで、旅行中の移動や滞在で排出されるCO2を相殺(オフセット)するもので、カーボンオフセット旅行とも呼ばれる。オフセットの実際のやりとり、手続きはJTB関東が代行する。
発売以来、人気を集め教育旅行や職場旅行、研修旅行など団体旅行を中心に1年で1万5千人を集客した。海外旅行や個人旅行にもCO2ゼロ旅行は広がる勢いだ。
旅行者の関心の高さに、この春にはKNTとトップツアーも類似旅行商品を発売し追随した。
宿泊業界では、05年に重油を一滴も使わない宿泊施設、星のや(長野県軽井沢町)がオープンしている。エネルギーは使う場所から取り出そうというEIMY(エネルギー・イン・マイ・ヤード)の発想で、施設を設計。地中熱交換システムや温泉熱交換システムの導入、敷地内で行う水力発電により、施設で使う全エネルギーの75%を賄っている。
東京・港区のANAインターコンチネンタルホテルでは、連泊客によるシーツやタオルの再利用と、それにより削減できたコストで苗木を購入し植林することで、CO2の削減や排水汚染の軽減に取り組んでいる。
「タオルをもう1日使うだけで森が育つ」を合言葉に、連泊客にシーツやタオルの再利用を案内した結果、取り組みを開始した06年から2年間で、延べ1万6600人が賛同し、クリーニング代など440万円の費用が削減できた。
削減できた費用は、苗木の購入にあて、林野庁山梨森林管理事務所が山梨県甲府市で管理する国有林の一部で植林活動を行っている。同地は05年に山火事で消失した場所で、森を再生させることで水資源の涵養やCO2の吸収に寄与しようとしている。
今年は4月に、同社社員や家族がボランティアで、ケヤキやコナラなど約500本の苗木を植林した。
CO2の排出を6%削減する国民運動として環境省が旗を振る「チームマイナス6%」。現在、200万人を超える個人と、2万を超える企業・団体が参加するプロジェクトに、長野県渋温泉の歴史の宿金具屋は、いち早く参加し、活動の一部を旅館のHPで公開している。
夏場の集中管理式冷房機の稼働時間制限、28度の客室温度の設定と網戸の再整備。クレームがあることも記している。
また、冬場は従来の化石燃料による暖房から、高温の温泉を使った客室や宴会場の暖房への切り替えを進めた。省エネと化石燃料の使用削減のための設備費に1200万円をかけている。
8代目館主、西山政樹さんは「温泉という天然自然の資源を『もてるもの』の責務として、省エネをはかり、地球に優しい旅館になりたいと思っております」と書いている。
小型の風力発電機を施設の屋上に設置している旅館が東京・大田区にある。旅館観月。わずかな発電量だが、これでスモール・スペースと名づけた東屋のLEDライト2灯の電力を賄っている。
「旅館で使用する電気の千分の一にも足りないけど、自然エネルギーで点いている灯りだと思うと、ちょっと気持ちいいでしょ」。
CO2削減に取り組んでいる人は、ちょっと気持ちいい時間を過ごしている。
(トラベルニュースat 08年6月10日号)