地球温暖化 観光業界の対策は(5)
類似商品の氾濫で、最初につくったのは誰だか誰も気にしなくなる前に言っておこう。ヒット商品「CO2ゼロ旅行」をつくったのはJTB関東交流文化事業チームの3人で、中心は樋口誠司さんだったと。
将来も旅ができる地球を残す JTB関東
開発者に敬意を表して3年程度、他社は市場への類似商品投入を我慢する業界ルールをつくってはどうかと日ごろ思っていることを樋口さんに尋ねると「競合商品が出ることで市場が広がる面もありますから」。1年間に異業種の1000人と名刺交換するなかで、ようやく開発にこぎつけた割には、大人の対応である。最近、KNTとトップツアーが相次いで、カーボンオフセット旅行を発売している。
旅行商品や旅館のプランに著作権がないことに不満を聞く一方で、競合による市場の活性化は一面の真理でもある。そこでJTB関東。著作権はない代わりに「CO2ゼロ旅行」の商標登録は行った。
CO2ゼロ旅行。旅行者がCO2を排出しない自然エネルギーを購入することで、旅行中に排出されるCO2を相殺する仕組みを取り入れた旅行商品のことである。自然エネルギーの購入費は、予め旅行価格に含まれており、自然エネルギーの売買など面倒な手続きも、JTB関東が提携企業とともに代行してくれる。2007年4月に教育旅行や職場旅行など団体旅行で発売したところ、地球温暖化への関心の高まりと、手軽さが人気となり、1年で1万5000人を集客するヒット商品となった。
この春には個人旅行や海外旅行商品にもカーボンオフセット旅行が登場。さらに、駐車場料金の一部に自然エネルギー購入代金を組み込んだ「カーボンオフセットパーキング」なり商品も現れ、CO2排出のあるところ、カーボンオフセットはどこでも商品化されそうな勢いなのだ。
06年のJTBの分社後、JTB関東の文化交流事業チームは、新規事業の開発セクションとして発足した。樋口さんは「旅行でいいことがしたい」という漠然とした思いを胸に異業種との意見交換を重ねる中、「子どもたちが将来も旅をできる地球を残す」という新規ビジネスが目指す方向性は決まっていった。
このままでは地球温暖化による海水面の上昇で、子どもたちはハワイにハネムーンに行けなくなる、旅行業界も危機的状態になるのではないか。そこで考えついたのがカーボンオフセット旅行だった。
JTB関東のCO2ゼロ旅行では、CO2を相殺するとしてバイオマス発電による電力を仲介している。ツアー参加者には自然エネルギー購入の証明として1団体につき1枚、グリーン電力証書が渡される。参加者からは「日常生活の中で、コンセントを抜くことを意識するようになった」との声も聞かれるそうだ。
ところで開発者の樋口さんのエコ度はというと「ずっと営業だったんですが、資料などは風呂敷で持ち歩いていました。あとはマイ箸を携帯しています。車は持っていません。自転車ライフを楽しんでいると書いておいてください」。
(トラベルニュースat 08年6月10日号)