地球温暖化 観光業界の対策は(3)
水力発電だけを取材するつもりだった。日本温泉協会が発行する月刊温泉で、星野温泉旅館の水力発電の記事と、水車の写真を見たような覚えがあって、2005年7月にオープンした「星のや軽井沢」(77室)を訪ねた。
エネルギーの"地産地消" 星のや軽井沢
日帰り温泉施設、星野温泉トンボの湯から数十メートルの場所に、水力発電所はあった。三角屋根の山小屋風建物の中では、優雅な水車ではなくオレンジ色のごついタービンがうなりをあげて回転していた。西ドイツ製で、1981年に運転を開始した。
落差10メートルを流れ落ちる毎秒0・7トンの水でタービンを回し、50キロワットを発電している。同様の水力発電所が星のやには3カ所あり、合計175キロワット、年間にすると発電量は100万キロワット時。星のやの電力使用量の4割、全エネルギーの15%を生み出している。
星野温泉における水力発電の歴史は古い。1904年に製材業として創業、当時、直径9メートルの水車は製材用ののこぎりを回すために使っていたという。
その後、14年に星野温泉旅館を開業。ここで交流を持った内村鑑三ら多くの文化人や、日本野鳥の会の創始者、中西悟堂らの影響を受け、3代目当主星野嘉助は、木を削る側から木を植える側に転身を図る。29年に水車による水力発電も始めている。
そしてそのころから、星野温泉には「良質のリゾートは良質の自然を保全する」「良質なリゾートには、人と自然とを結ぶ役割がある」といった理念が根付くことになる。
こうした理念は、施設で使用するエネルギーにも及ぶ。05年7月、エネルギーは使う場所から取るという「EIMY」という考え方を最大限に取り入れ、星のや軽井沢はオープンする。
星のやのEIMYは地中熱交換と、排出する温泉の熱交換を柱に構築されている。いずれも敷地内で取れる自然エネルギーだ。
地中熱交換井戸は3カ所あり、深さは地下400メートル。この井戸を使い、水の温度を15度から25度まで上昇させ、されにヒートポンプを使うことで冷暖房や給湯を行っている。
ヒートポンプは熱を移動させることで高温や低温をつくりだす仕組みで、EUでは再生可能エネルギーとして位置づけ、開発を積極的に支援する方向にある。ヨーロッパの一部では、地中熱交換とヒートポンプによる冷暖房は一般住宅でも使われている。
一方、温泉排水は源泉かけ流し浴槽から出る、約40度の捨て湯の熱を回収し、給湯と暖房に充てている。温泉は約15度で、浴場棟前の川に排水される。
星のやではこれら熱交換により、冷暖房など施設で使う熱エネルギーのすべてを賄い、さらに水力発電と併せると、全エネルギーの75%が施設内および周辺から得た自然エネルギーということになる。エネルギーコストは、一般的な設備で重油と買電を使用するのに比べて85%減、排出されるCO2も年間で1500トン以上少ない計算になる。
「金をかけてのエコなら誰にでもできる。でもそれは宿泊料に転嫁され、競争力を失うことになる」
原油高等の影響をほとんど受けず、逆にシステムにかかった初期投資分をわずか2年弱で回収してしまった。
星のやの自然エネルギー政策は、エコだけでなく、コストの面でも大きな成功を収めている。
(トラベルニュースat 08年6月10日号)